「良い子にしていたらサンタさんがくるらしいよ?」


人通りの激しいイーストシティーのメインストリート。
にこやかに隣を歩く男が言った。

キラキラと電飾で飾られた街は美しく、活気が溢れる。
今夜はクリスマス。自分たちは預かり知らない異教のイベントなのだが、既に定着してしまっているのでそのルーツをあえて考えるようなものも居ない。

家族や、恋人、友人、大切な誰かと過ごす。

暗黙の了解のようにその日をあけ、彼らの為に時間を作る。
そんな日があってもいい。そう、思う
思うのだが、その思惑など木っ端微塵に破壊してゆくのが横を歩くこの少年だ。
ロイは、彼に気付かれぬようにそっと溜息を吐く。

恋人と言う立場に漸く収まる事ができて、だがそのままこの立場にあぐらを書いて座って居られるほどこの少年は甘くなかった。
この十数年で培った色恋の手管が、尽く通じない。

本気の恋など、結局こんなものなのだと悟ったのがつい最近。主導権を握ってやろうと思ったのが、そもそもの間違いだったようである。
余裕のある振り等、見栄でしかない。
今更ながら、客観視するなら随分滑稽な事だと思う。この、ロイ・マスタングが一回り以上歳の離れた少年に振り回されているのだから。



「大佐、腹黒オヤジ集団にこの若い身空で漬かってる俺がいい子なんてたまかよ?」

つい先ほど、セントラルからの列車から降りてきたばかりのエドワードは駅からずっとこの調子だ。
査定で何かあったのか、タヌキどもに何か言われてきたらしいのは間違いない。
あしらい方は堂に入ったものだし、その辺りは心配していないが…。

「そう卑下するものではないよ?」

口にすれば怒るが、ロイからすれば若干低い位置にある肩に手を置いて、人ごみから護ってやるように進む。
何時も一緒の弟は、この時ばかりは感謝してやろう。セントラルの親友が家に招いたらしい。
だからだろう、愚痴がエドワードの口から零れる。
弟には消して見せない面。それを自分にのみ見せているのだと。そう感じると、こうやって愚痴られている事すら嬉しい。

重症だ。



「あー、はいはい。サンタさんは、なんだかんだいってよい子じゃなくてもプレゼントくれるからな!!」
「はいはい。明日の朝起きたらすぐに、枕元を見るんだよ…なんだい?」

くすくすと話しながら彼を見ると、じーっと、見上げてくるエドワードの瞳とぶつかった。

「机の片付けは何時もできてなくて、紙の束が山積みでどうしようもなくても、部下に銃突きつけられて情けなくても、雨の日使えなくても、最近浮かれ過ぎだとか釘刺されてても…そんなイイ子にもな」


―――……誰の話だろう、この子からは聞きたくなかった。そして、誰だ…余計な事までチクッたのは。


「――――エドワード?」
「うん、だから。サンタはきたろう?」

ふいっと、顔を逸らしたエドワードを見ておやっと思う。
はぐれない様にかと思っていたが、自分のコートを握る手はとても強くて、しっかりと握られる。
小さな事がとても嬉しい。
今更に気付いて反応が遅れるほど。

「ほら、いくぞ!ケーキとチキン買うんだろう!!」

赤く染まった頬を見せまいと、一歩前へ踏み出した彼に手を引かれる。

「ああ、そうだね」

とても嬉しそうに笑って、ロイは先に進む彼の手をコートから離させて自分の手を繋がせる。
真っ白のフワフワの帽子と、赤いコート……

自分だけの小さなサンタがやって来た聖夜
来年の行いは少し改めようか……その時だけは心の隅で反省してみた。







さて、私も行いを改めましょうか…
私の元にサンタさんはきませんでしたので(…)

偶には甘いのも   (これをそうだと言うんですか)