シアワセ家族設計図







風そよぐ昼下がり。


今日も、とても平和。


それまでキッチンでトントンと小気味良いリズムで、包丁を動かしていたエドワードは刻んだ物を鍋に放り込み、お玉で一掻き。
時計をにらみながら、小皿に少し取ると口に含む。
口元で笑って、頷くと

「…よし」

何がヨシなのか、スープの味付けにしてはいささか気合の入った声を発すると、鍋の火を止めエプロンを乱暴に払って、胸から取ると無造作にカウンターに置き、キッチンを後にした。






今日はとても穏やかだ。
風はないし、太陽は麗らか。
肌寒いのは仕方ない。冬なのだから

小鳥のなく声が聞こえてくる頃帰宅し、子供たちの声が聞こえてくる頃ベッドに潜り込んだロイは、当然その羽毛布団の恩恵に預りぬくぬくと夢の中にいた。
何度も確認するが、今は冬だ。
最近、忙しくろくに時間が取れないとはいえでき得る限り自宅に帰っていた。
それこそ、帰宅して3時間、4時間程で出勤するときもある。
それでも、特に約束した分けでもないし、言い置いている事でもない。
けれど、すでに暗黙の了解となっていて、たった一人の家族も解っている。
もう子供じゃないんだから、大丈夫だと、職場に泊り込めばいいと言っていたが最近は何も言わずに、待っていてくれる。たぶん、毎日日付変更線を越えるまでは確実に、…食事さえ。

(幸せかもしれない…)

脂下がった顔で、惰眠を貪る…彼にとっては貴重な睡眠時間なのだけれど。

しかし


「…嬉しいんだがね」

何か聞こえてきた騒々しい音に対して眉を顰め、布団を引き寄せ潜り込む。
うつ伏せに枕を抱き込み抵抗の意思を見せたりする。


「はーい、おはようございます。出勤時間ですよオトウサマ!」

ばたーんと、これ以上ないほど騒々しく扉を開け放しエドワードが寝室に乱入。
何の事はない、有難いモーニングコール。
何の反応もない事は気にせず、そのまま窓辺に近づくとカーテンに手を掛け容赦なく、眩しい午後の光を部屋に呼び込む。
天辺からやや傾いた陽の光は今の時期、ちょっときつい。

「あと30分で迎えがくるぞ…」

よいしょと、年齢に似合わぬ声と共に、窓を開ける。
寒い、起き抜けには厳しすぎる。

「じゃあ、あと15分」
「俺様が用意してやった食事を無駄にすると?」
「……」

てくてくと近づいてくる気配がする、カーペットの柔らかな毛がスリッパに踏まれてしなる。
必死の攻防が始まる。

「寒さは駄目なんだ」
「夏は日射病で倒れたんだろうが、軟弱者」
「せめて過労と言ってほしいんだが?」
「問答無用」

そして、剥ぎ取られる。柔らかな掛け布。

「三十路前の男が枕抱き締めんなよ…」
「血も涙もない息子に天国の母さんも哀しんでるぞ」
「妻帯者になったような口調は止めろ。未婚のコブ吐き」

ちなみに、養子なので血のつながりだってありゃしない。

敵は今日も諦めが悪かった。
手近のクッションをかき集めながら、必死の抵抗を見せる。
そりゃあ、寝かせてやりたいのは山々だがエドワードだって自分が可愛い。間違っても、銃で脅される事が日常のこの男と同じナイロンザイルの神経は持っていないのだ。

「……」
「…………よいしょ」
「がっ…」

弾むベッドのスプリング。
程なくして腰に衝撃。顔を埋めていたクッションから顔を上げると、馬乗りのエドワードと目が合う。
手をぽきぽきと鳴らしたあと

「目を覚ますお手伝いでも」
「―――――――――っっちょ」

何が?と問う前に両頬をから顎に通されたエドワードの腕。嫌な予感がしたものの後の祭り
しっかりロックされて、そのまま後ろにエビゾリ…

……キャメルクラッチ

どこで覚えてくるんだろう?いや、その前に義理といえど父にこの仕打ち。
エドワードは、自慢の息子だ。
頭脳も運動神経も見た目も家事全般だってそこらの主婦より完璧、欲目でなく目の肥えたこの自分が手放しで賛美できる。
しかし…、この仕打ち何故だ?

「…育て方を、間違っ。解った、ギブッ!起き様!!」
「目が覚めただろう?軍人が情けない」

また、よいしょと床に下りると早く着替えて来いと、漸く身体を起こし腰をさする義父に尻目に部屋を出て行く。




お陰で朝、彼にとってはおやつの時間前でも朝だ。
朝から銃弾に曝される事はない。
温かな朝食。重ね重ね、人々におやつの時間でも、彼には朝食
朝食をしっかり取り、迎えのハボックから苦笑を買いつつ顎と腰をさすりながら出勤する。


嗚呼。今日もとても平和だ




いろいろあってなぜか親子…
何がどうなってこうなのかとか言う事は一切決まってません!

ただ、子エド(その表記も怪しい)のキャメルクラッチが入ればそれでよかったという大変
な問題作。問題山積みで人様と等価(ぢゃない)交換したという…