「しかし、寒いなぁ」

はぁと白い息を手に吹きかけながらエドワードが言った。
今年の最後の日、エルリック兄弟はイーストシティーにやって来ていた。

どういう訳か

…と思っているのはエドワードだけなのだが。常宿になっているマスタング大佐の官舎に彼は居る。


彼、エドワードだけ。



幸か不幸か気の利く弟は、ハボック少尉たちの年越しニューイヤーパーティーという名の、野郎だらけの飲み会にに連行されていった。
実際アルフォンス自身乗り気だったので、エドワードも何もいえず見送ったのだ。
当然、見送るエドワードの背後では上官がにこやかに、それはそれは薄ら寒いほど美しく微笑んでいた為、仕事から解放され浮き足立っている部下達はにこやかにエドワードに手を振っているものの、エドワードが誘われる事は無い。
更に未成年、そして生身の彼をソフトドリンク無しの飲み会になど大晦日とはいえホークアイがいい顔をしない、という事実も十分効いていたのだが。


……だからといって、あの上司と二人っきりなのはどうなんだ?
という突っ込みを当然誰しも思いはしたのだが。
思っただけで留めている。
命あってのモノダネ誰だって己が可愛い――――。




そんなこんなで、大晦日日付と年の変わるその数分前、何故かエドワードはマスタング邸の屋根に居る。
当然、隣にはロイ・マスタング。


「いいじゃないか、年に1度くらい」

ロフトの小さな窓から身体を滑らせてやって来た。
隣に腰を下ろす前に、エドワードの肩に持ってきていた膝掛けを掛けてやる。
ロイの書斎で本散乱させて眠りこけてる時、気がつけば肩に掛けてある何時ものそれ。
それをロイを見上げながら黙って受け取ったエドワードは、首を傾げた後、するりと肩から外すと、それをロイに掛けなおした。

「私はいいんだよ…ん?」

肩からそれを摘み上げて、苦笑するロイをエドワードはちょいちょいと指で引き寄せる。悪戯っぽい笑みをその顔いっぱいに載せて。
その意味を、理解するまで数秒。
ロイにしては珍しい失態かもしれない。
夜の色の瞳を見開く。


「まあ、年に一度だしな」

半信半疑気味に広げられた腕、起用に潜り込んでロイの腕と掛け布どちらも引き寄せて暖を取る。
ロイは、くすりと笑うと肩から回した腕に力を込める。

なかなか可愛い事をしてくれる。

エドワードからこの手のアプローチは珍しい。こちらから仕掛け無い限り、この手の事には受身の彼に何時も不安は募っていたのだが。
勿論、信じていないとかそんな事とは別ベクトルに、感情とは難しい。
それが、こんな事で一瞬呆けるほど嬉しいとは、重症だ。

シャンプーの香りがふわりと漂う髪に頬を寄せて、眼前の夜の街を見下ろす。
いつもよりも明るい街からは、新年を祝う声が丁度聞こえてきた。
年が、明けたらしい。

「…大佐」
「うん?」

ふたりの距離だから聞こえる声で呟かれた声を、しっかり拾う。

「俺、今年もがんばるから」
「…ん」
「日が、1日終っただけなのにな。なんか、変な感じ」
「……」
「でも、うん。明日からもなんか頑張れそう」

声が弾む、エドワードの表情をロイは手にとるように解る。
そっと目を伏せて、柔らかい頬に頬を寄せるようにして唇を寄せる。

自分で煽っておいて、もの悲しいとはなかなかに矛盾しているがこの少年を追いかけるのなら、仕方ないのだと、そうやってやはりいつも自分に言い聞かせている自分を笑う。
ロイの今年も多難な、心臓に悪い年なのだろう。

「そうだね、行っておいで」

言える言葉は何時だって限られている。
飲み込んだ、声にならなかった言葉など数えられないほど。



「うん。大佐?」
「ああ、明けましておめでとう」

首を巡らせるエドワードに唇で触れながら、そっと祈る。
どうか、来年もこの腕に彼が居てくれる事を



書いてる日付が1月1日でした。(だからってUP出来なきゃ意味が無い)
今年はじめてのロイエドです。
関節痛くなるような甘い話にしたかったんですが…はて?

ともあれ、今年も宜しくお願いします。